私は休みの日ともなると、漢字のフラッシュカード作りに余念がありませんでした。
そして、作ったばかりのカードを持って教室に行ったときのことです。
「アーサー、これは?」と一人の子どもを指すと、クラスの子どもたちは笑って、
「先生、発音が変だよ。Arthurだよ」と言いました。
そっか、【r】と【th】サウンドは難しいんだよね...
アーサーというのは、お父さんがアメリカ人でお母さんが日本人の子どもです。
日本語も多少話せますが、いつも大人しくてニコニコ笑っています。
私が日本式の下手な発音で名前を呼んでも、ちゃんと「ハイ!」と手を挙げて元気よく返事をしてくれるのです。
「Arthur、Arthur、どう、これで?直った?」
「無理しなくても良いよ」
「じゃあ、アーサー、これは?」と【朝】と書かれたカードを見せました。
子どもたちは「それ、Arthurの漢字だ。先生の発音のアーサーで良いんだよ、Arthur!がんばれ」
「あーさー」
「そう。よく読めたね」
その日からこのカードがArthur専用のカードになったことは、言うまでもありません。
その日本語学校の校長先生が、「ここを保育所だと思って預けていく親がいて困る」とよくこぼしていました。親は子どもたちを軽トラックの荷台に乗せて、朝早く日本語学校の門の前で下ろします。
そして子どもたちは、門が開くまで地面に座って待っているのです。
トラックの荷台には、鎌、ザル、カゴ、剪定用の鋏などが載っています。両親は子どもを下ろすとその足で、富裕層の白人家庭の庭の手入れの仕事に出かけるのです。
アメリではその仕事のことをgardenerと言って、当時日系人の典型的な仕事だと言われていました。
彼らは、挨拶言葉程度の英語しか話せません。
どうしてアメリカに移住してきたのかと尋ねたとき、ほとんどの人が兄弟に呼び寄せられたからと言っていました。
親たちはカリフォルニアの焼け付くような太陽の下で、一日中広大な庭の手入れをするのです。
移民一世は、どこの国でも苦労するものです。